5番目の八雲生誕祭

おめでとう

それ行け、クッキーマン!

 

 

ぼくはクッキーマン!

 

このスイーツランドで暮らす元気なクッキーマンさ!

今日はいつもぼくにたくさんのことを教えてくれるバタースコッチ先生のところに

ある”お願い”をしに行くんだ。

先生はぼくの”お願い”を聞いてくれるかなあ?

 

「バタースコッチ先生!」 

「は~い!」 

 

バタースコッチ先生.png



 

「こんにちは、先生」 

「やあこんにちは。どうしたんだい?」 

 

この人はバタースコッチ先生。

三十年前、西で死んだ魔女に「首から上だけがセ○ンイレブンのバタースコッチになる呪い」をかけられたとてもかわいそうな人。呪いをかけられたせいで契約社員をクビになり、衝動で電子書籍を買いすぎたせいで貯金も底をつき、あたりめを一日一本食べたせいで脱水症状に苛まれながらもなんとか生き延びていたところ、このスイーツランドに辿り着いたんだって。

以来三十年間、呪いを解く方法を探しているんだけど未だ手がかりが見つからないらしい。

かわいそ笑

 

「あのね、ボク、伝説のクッキー缶を探しに行こうと思うんだ」 

「伝説のクッキー缶?」 

「うん。北の最果てにあると言われている伝説の クッキー缶だよ。そんなことも知らないの笑?」 

「いきなりあたりが強くなったね」

 

先生はそう言いながらも怒ることなくぼくに話の続きを促した。 

 

「そのクッキー缶はどんなクッキー缶なんだい?」 

「なんでも、あのはるか昔にいた”とある人”が作ったと言われていて、 

詳しい中身はわからないんだけどとにかくすごいらしいんだ」

「思った以上に曖昧だな。そんなよくわからないものなのに 

君は欲しいのかい?」 

「うん、そのクッキーを食べれば不老不死になれる上にこの世のすべてを支配する 

力を手に入れることが出来ると言われているんだ。そんなの欲しいに 

決まってるだろ?」 

「すごすぎる」 

「な?」 

 

ぼくは先生の肩に手を回しながらそう言った。

 

先生の肩に手を回すクッキーマン(※画像はイメージです)

 

「それって本当なのかい?さすがに怪しすぎないかい? 

それに、北の果てってかなり危険な場所じゃないか。そんな 

危ないところに行くなんて……」 

 

おじさんはとても心配そうにぼくを見ています。

 

「まあ別におじさんが止めようとぼくは行くけどね。許可を取りに来たんじゃなくて 

一応言いにきただけだから」 

「なんだ小僧、急にふてぶてしい態度になったな」 

「流石にこの年になったらおじさんの許可なんかいらないでしょ。 

子供じゃないんだから笑。じゃ、いってくるわ」 

「早く行けカス。この恩知らずめ。バターの海で溺死しろ」 

 

こうしてぼくは旅立った。

さあ出発だ!頑張って伝説のクッキー缶を見つけるぞ!

 

気合いを入れて出発するクッキーマン



 

地図によれば、伝説のクッキー缶はここから15km離れた海岸にあるらしい。

時速90kmで歩くぼくなら数十分で着くだろう。

お弁当と水筒も持ったのを確認して、ぼくは北の方向へ歩き出した。

 

地図

 

はあ

はあ

はあ

はあ

 

はあ

はあ

 

 

 

「おかしいな……地図によればここに森があるはずなのに、大きめの公園しかない。

一体どういうことなんだ」

 

地図に沿って歩いてきたはずなのに、一向に海岸は見えない。それどころかどんどん建物が増えていって今や立派な住宅街だ。

メル○リで買ったこの地図がパチモンだったというのか?8800円もしたんだぞ。そんなはずはない。

 

と、その時木の影から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「おっと、ここから先は行かせないよ」 

「き、君は……!!」

スコーンマン.png

「スコーンマン!」 

「久しぶりだね、クッキーマン」

 

振り向いた先にいたのは、スコーンだった。なぜか空に浮いている。なんで?

 

「君も伝説のクッキー缶を探しに来たのかい?」 

 

空に浮かぶ仏と同じポーズのままスコーンマンは喋り出した。

なんなんだこいつは。

スコーンマンは高校時代の友人で、同じクラスで互いの存在は知ってたけど二人きりになったらイマイチ話すことがなくて二人ともスマホをいじり出してしまう。

そういう距離感で卒業したのだが、今すごく馴れ馴れしく話しかけてきて正直今困惑している。

 

「君もって……君もクッキー缶を探しにきたのかい」

「ああ、三日前からずっとここにいるんだが全然見つからないんだ」

 

本当に何をやっているんだ?

 

「そうなんだ、すごいね。実はぼくはこの地図に沿って進んできたんだけど、一向にクッキー缶がある場所に辿り着けないんだ」

「見せてみろ」

 

ペラり

 

「おい、この地図どこで手に入れたんだ」

「メ○カリだ」

「パチモンだろ」

「そんなはずはないだろ。8800円もしたんだぞ」

「8800円のパチモンだったんだろ」

 

なんて失礼なやつなんだ。

ちょっとTwitterで定期的にバズる見た目に生まれたからって、調子に乗るなよ。

イーロン・マ○クはもうお前の味方じゃないんだぞ。

 

「あ、おいみろよ、これ!!!」

 

「木だな」
「これ……もちもちチョコブレッド先生が言ってた」

「何」

「伝説のクッキーは大きな木の根元に埋まってるって。だから桜はあんなに美しいんだって」

「桜関係あるか?」

 

もちもちチョコブレッド先生というのはぼく達が通っていた高校の歴史の先生だ。パン史に詳しくて、「パンを作ること」が人類にどういう影響をもたらしたかについて興味深い授業をしてくれた(※詳しくはNetflixで配信されている「COOKED〜人間は料理をする〜」の第3話「空気」をご覧ください。マジで面白いです)

 

先生

「よし、ここを掘ろう!!」

 

スコーンは勢いよく地面を掘り始めた。

一心不乱に掘るその姿はまるで死体を埋める殺人鬼のようだった。

ぼくはそれを見ながら、クッキー缶を見つけたらまず何をしようか考えていた。まずは不老不死になる予定なので、”マジ”の賭ケグルイをしようかな。

やがてカツンと、シャベルの先にに固いものが当たる音がした。

掘り進めてみるとなんだかアルミ缶のようなものが見える。もしかして、これは、あの……

 

「「こ、これは……っ!!」」

 

ドン

 

その瞬間、突如地上に轟音が響き渡った。

爆発だ。二人がそのクッキー缶を見つけた瞬間、それは爆発した。

もちろん綺麗に焼かれて生まれてきた焼き菓子二人も耐えられず、灼熱の炎に焼かれて消し飛んだ。

地球が二つに割れるほどの威力だったそれはスイーツランド全体を220度の温度で焼き上げた。

 

我々は皆、結局は大きな力には勝てなかった。

クッキーマンもスコーンマンも、その身に不相応な力を求めた故にクッキー神の怒りを買ったのだ。愚かな二人はそのことに最後まで気づかなかった。

三千年前に封印されたその缶をいたずらに開けることの罪深さを、誰も彼らに教えなかった。

 

「無知は罪ではないが、免罪符ではない」

 

瓦礫が降り注ぐ中、小さく呟いた彼はバターの匂いだけを残して消えたのだった。

 

HAPPY BIRTHDAY

 

〜完〜